43.シングル・ベル②
クリスマス・イブ当日。
出勤してタイムカードを押し、席に向かう。
管理の白石さんが、
「あれ?今日休みとらなかったんだ?」と、聞いてきた。
「来ましたよ。とくに予定もないんで。」
と答えると、
「よかよか。今時の若いもんにしてはめずらしい。助かるよ。」
と言ってきた。歳は私とそれほどかわらないくせに…
今日はオフィスのあちこちに空席がめだつ。
サクラをやっている人は若い人が多いので、自分達のデートやなんかで休みをとる人が多いのである。
それだけではない。
この日は、クリスマス・イブ。
サイトでは待ち合わせの約束が目白押しなのである。
これらの約束を全部キャンセルしたり逃げたりしていかないといけない。
当然、修羅場が予想される。それで、便乗して逃げてしまうサクラさん達もいるという訳である。
仕事は予想どおり、困難を極めた。
「今更これないっていっても聞けないよ?先に約束の場所に行ってまってるから。くるんだよ、いいね?」
「そんなこといわれても予約しておいたレストランやホテルなんか、どうするんだよ?予約代って返してもらえないんだよ??」
「そうやって今まで逃げてきたんだろ!?クリスマスこそはって言いつづけてきたの、自分じゃないの!!!」
「ふ・ざ・け・る・な」
もう、一つ一つに深く考えていられない。
転んで足を折った。親が、おばあちゃんが危篤になった。親が外出を許してくれない。思いつく、あらゆる言い訳が飛び交った。
客だって、今日こそはと気合を入れて準備して、高いポイント代に耐えてきたんだ。
それは、怒る。
でも、怒る人ばかりでもなかった。
ちとせ(只野)→タクちゃん(1770pt) 「クリスマスで他の人がみんなしごと休んでるから、残業で今日はいけそうにないのほんっとうにゴメンね…」
今のわたしそのまんまだ…。
怒られてもしょうがない、そう思っていたら返事は絵文字1個だった。
タクちゃん(1735pt)→ちとせ(只野) 「」
(※クリックすると大きく表示されます)
なにこれ?
これで一服しろって?
世の中、似たようなことを考える人もいるらしい。
うふふ。中身はなにかしら?
「外見も世間体もいっぱしなのに何故か彼女ができない…」とか、何故かなげき節を聞くことになったり…。
でも、気持ちを込めてメールすれば、たかが文字だけど、最後にはだいたいの人が許してくれた。
わたしもシングルだけど、たくさんの男の人の意見を聞いて過ごしたイブだった。
さびしさがこの世にあるのは、それによって愛の感激を測るため?
来年こそは、こんな所で騙されていないで、恋人と楽しく過ごしてね。