42.シングル・ベル① | 携帯男

42.シングル・ベル①


クリスマスが近かった。


駅の付近には電飾のイルミネーション。
ボーナスが近いのか、どこか嬉しそうな人たち。
不景気でも、まだまだクリスマスには暗い空気を吹き飛ばす威力があった。


わが出会い系サイト「○○ネット」は、連日盛況。
世の男達も「せめてクリスマスだけでも恋人と過ごしたい。」と考えるのだろう。


博子(只野)→よっさん(3035pt) 「初めて会うときって、クリスマスイブにしない?だって、メモリアルな出会いにしたいの」


とかいって、ずいぶん前から引っぱってるお客さんもいるし、


リナ(只野)→なおまさ(1070pt) 「もうクリスマスなのに彼にフラれたばっかりなの急で悪いけど、もうクリスマスいっしょする人、いたりするの?」


なんて、かけこみネタまで、とにかくエサが何であれ、竿を入れればお客が釣れた。


まりこ(只野)→たかくん(475pt) 「このまま一人だと、満室とかってなってるラブホの前通ったりしたら切なくなっちゃうよね…どこかムードのある所で食事して、それからホテルでいい?どうせなら話の面白いひと選びたいんだけど、何かアピール聞かせて?」


たかくん(440pt)→まりこ(只野) 「クリスマスは性なる夜、なんちって」


はっはっは。


…寒い寒い。


「ローソクの灯りで食事できる所がいいな…それで窓際の席で二人、食事して…」


「ドライブしたり、カラオケしたりとか…」


「ホテル入るまえにちょっとコンビニよってもいい?」


なんて、リミットすれすれまで、パーティーな夜の物語して。


いよいよ当日直前、「最後まであなたにしようって迷ったんだけど、フェラーリで来てくれるって人が現れて…ごめんね」とか、


全員に送って終了。(もれなくはずれます。)


人は弱みにつけこむと、ついつい財布を開いてしまうとか。


この殺菌歯磨き使わないと、口臭がとれなくて嫌われちゃうぞ、とか。
この壷を買わないと、ご先祖様があの世で苦しんだままだぞ、とか。


クリスマスの華やかな光から、

この特別な夜に、女一人と過ごせないとは、お前は不幸な星の下に生まれたのか?
みんな楽しんでるぜ?

そんな影が霧のように広がる。


人並みの喜びもないまま、今年も終わってしまうぞという、
ゆるやかな脅迫。


それにつけこむ、嫌な商売。


この聖なる夜に ――