33.携帯男 | 携帯男

33.携帯男

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【注意】出会い系でやり取りしているメールにはタイトルの部分と本文の部分があります。
これまで記述のうえで、タイトルの部分は省略して記載してきましたが、サクラテクニックの説明上、タイトル部分を省略できないところがあります。そういう場面では


ゆりこ(只野)→客の名前(客の持ちポイントpt) タイトル:本文」


という感じで『:』の前に緑色でタイトル部分を表記します。
なお、さくらたちが所属している○○ネットは、タイトルだけ閲覧→無料。本文開封→5ポイント消費という設定でやっているのはご存知のとおり。

以下は本編です。
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まーちゃん(470pt)→ゆりこ(中村) 「今しごと終わってポイント買ってきたんだけど、ゆりこ起きてる?これからどうすればいいかな?」


この時点でまーちゃんの持ってるポイントが470ポイント。
約13通のメールをやりとりできることになる。


この13通までがひとまずの勝負となる。


どうしてかというと、ポイントが切れると次のポイントを購入するまでに30分~1時間の時間的な隙が客にできるので、その間に


「どうして連絡くれないの?無視するんなら帰るから!」


とか、一方的なことを言って逃げたり、わりと好きにできるのである。


ゆりこ(中村)→まーちゃん(470pt) 「いま終わったんだね。わたし、海が見たいな。どこか連れて行ってくれる?」


まーちゃん(435pt)→ゆりこ(中村) 「海なら榛原の海岸はどうかな?ぼくのオンボロ車でよかったらドライブできるよ榛原の役場のまえでまちあわせでいい?」


ゆりこ(中村)→まーちゃん(435pt) 「うれしい。タクシーでこっちを出るね!なにか持っていくものあるかな?」


まーちゃん(400pt)→ゆりこ(中村) 「なにもいらないよ!体ひとつでこっちへきて!」


ゆりこ(中村)→まーちゃん(400pt) 「榛原の役場ってとこまで行けばいいんだね?タクシーの運転手さんにそう伝えるね。わたし…手持ち少ないけど会ってから食事でもしようね。おごるから」


まーちゃん(365pt)→ゆりこ(中村) 「そんな…いいよ。無理して出てきてくれるんだから!男のミエもあるし僕がだすよ!」


ゆりこ(中村)→まーちゃん(365pt) 「ううん。いいの。わたしが出すよいい思い出になるといいねいいお店知ってる?」


まーちゃん(330pt)→ゆりこ(中村) 「海岸沿いの道路にどこか店があるはず」


ゆりこ(中村)→まーちゃん(295pt) 「まーちゃんってなんでもよく知ってるんだねわたし、地名とかまったくしらないの」


ゆりこ(中村)→まーちゃん(260pt) 「いまタクシーに乗ったよ。そっちに向かってる。1時間くらいになるだろうって」


まーちゃん(225pt)→ゆりこ(中村) 「もう出たの?女の人だからもうちょっと準備かかるかと思ったよ天気が崩れるとか言ってるよ暖かくしてきてね!」


ここで中村君は、まーちゃんに返信させる時間を与えず、たてつづけに5通のメールを出していた。


ゆりこ(中村)→まーちゃん(225pt) 今そっちに向かってるから:だいたいの準備はしてたからね。すこし緊張して」


ゆりこ(中村)→まーちゃん(220pt) 今そっちに向かってるから:だいたいの準備はしてたからね。すこし緊張して」


ゆりこ(中村)→まーちゃん(215pt) 今そっちに向かってるから:だいたいの準備はしてたからね。すこし緊張して」


ゆりこ(中村)→まーちゃん(210pt) 今そっちに向かってるから:ごめんね携帯の操作まちがえちゃった。それでタクシーの運転手さんに聞いたんだけど榛原の役場はちょっと遠くてわたしの体力では無理みたい…途中に島田の市役所があるって教えてくれたんだけどそこでいいかな?そこなら大丈夫だよ!…もしまーちゃんの方がダメなんだったら連絡くれる?」


ゆりこ(中村)→まーちゃん(210pt) ごめんね携帯の操作間違えちゃって:わたしのメールちゃんと届いてたかな?読んでるなら読んでるって、まーちゃんからの返事もらってもいい?」


まーちゃん(175pt)→ゆりこ(中村) 「届いてるし、読んでるよ!ゆりこ緊張してまちがえたんだね。僕もちょっと手がふるえるよ」


①~③まで失敗したふりをして同じメールを送りつけている。
3回同じ内容のメールを読まされた後、4回目も同じタイトルのメールが送られてきたら4回目はさすがに本文を読まない。


本文を読むだけで5ポイント消費してしまうからである。


しかし、その4通目にこそ、『行き先変更』という重要なことが書いてあるという罠。


ここで4通目も読まれていれば、また別の手を打つはずだが4通目と5通目の間では5ポイント減ってない。まーちゃんは4通目を読んでないと確認できる。


もう結果は見えていた。


二人の行き先が違うのだから会えるはずがない。
あとで会えなかった理由を争っても『ゆりこ』を責めるのは難しい。


「ちゃんと読んでない方が悪い。」
ましてや、「届いてるし、読んでる」とまーちゃんは送ってきてるのである。


ここから読み飛ばしたメールを読みに戻らないペースで適当に出し続けるくらい、彼(中村)にとってはぞうさもないことだった。


ゆりこ(中村)→まーちゃん(70pt) 「クサい言いかたかもしれないけど、末永く仲良くしてねよろしくおねがいしマス」


まーちゃん(35pt)→ゆりこ(中村) 「ゆりこからそんなこと言ってもらえると思わなかったよ…もうちょっとしたら運転するから返事できなくなるかもしれないよ」


ゆりこ(中村)→まーちゃん(35pt) 「役場の近くについたら連絡するから」


まーちゃん(0pt)→ゆりこ(中村) 「えっ、そうなの!?じゃ、もうポイント無くなるから追加してからいくね」




ゆりこ(中村)→まーちゃん(500pt) 「いま、役場近くの郵便局のところでタクシー下りたよ。ここからどう行けばいいの?」


まーちゃん(465pt)→ゆりこ(中村) 「そのまま西にある道をまっすぐ進んできて!」


ゆりこ(中村)→まーちゃん(465pt) 「西ってこっちだね。何メートルくらいかな?」


まーちゃん(430pt)→ゆりこ(中村) 「5分か10分くらいだよ」


ゆりこ(中村)→まーちゃん(220pt) 「ずいぶん歩いたけど、人がまばらになってきたよ?本当に西の方でよかったの?」


まーちゃん(185pt)→ゆりこ(中村) 「おかしいね。時間がかかり過ぎる。そこってまだ住所、榛原ってなってる?」


ゆりこ(中村)→まーちゃん(185pt) 「まーちゃん、わたし地名とかよくわからないよ。目立つ建物とかないの?」


まーちゃん(150pt)→ゆりこ(中村) 「小学校と高校が近くにあるけど、通り過ぎた?」


ゆりこ(中村)→まーちゃん(150pt) 「小学校?そこに人がいるから聞いてみるね?」


ゆりこ(中村)→まーちゃん(80pt) 「わたし、小学校通り過ぎたみたい今からもどるね、待ってて!」


ゆりこ(中村)→まーちゃん(45pt) 「わたし、歩くの苦しい役所までは歩くの無理かも…」


まーちゃん(10pt)→ゆりこ(中村) 「じゃ、小学校に待ち合わせ場所変更する?今から学校の方へ向かうから!もうポイントが無い」


ゆりこ(中村)→まーちゃん(10pt) 「学校までなら、ちょっと距離あるけど大丈夫…それより苦しいもう立っていられないかも…」


ゆりこ(中村)→まーちゃん(5pt) 「まーちゃん、どうして連絡くれないの?苦しいよぅ」


ゆりこ(中村)→まーちゃん(0pt) 「まーちゃん、わたしどうすればいいの…?」


緊急感を出してポイントを買いに行く背中を押している…。


まーちゃん(465pt)→ゆりこ(中村) 「小学校のまわり一周してきたけど、ゆりこが見当たらないからポイント追加してきた!今どの辺まで来てるの?体は大丈夫?返事できるかな!?」


ゆりこ(中村)→まーちゃん(430pt) 「もう少しで学校に着くよ!もうすこしで感動のご対面…だね」


ゆりこ(中村)→まーちゃん(395pt) 「いま学校に着いたよ。まーちゃん、どこ?」


まーちゃん(360pt)→ゆりこ(中村) 「学校の南側に車とめてまってるよ!」


ゆりこ(中村)→まーちゃん(360pt) 「わたしの方にまーちゃんがいないって事はこの裏が南側なんだね。いまから裏へまわるから!」


ゆりこ(中村)→まーちゃん(325pt) 「学校一周したけどいない…まーちゃん、こんなときにわたしを驚かそうとして隠れてるの?」


まーちゃん(290pt)→ゆりこ(中村) 「僕は動いてないよ!他の学校と間違えて来てないよね?」


ゆりこ(中村)→まーちゃん(255pt) 「歩くの…苦しい」


まーちゃん(185pt)→ゆりこ(中村) 「どうしよう!?ゆりこ大丈夫?警察呼んだほうがいいかな…」


ゆりこ(中村)→まーちゃん(185pt) 「ちょっと待って!今、まーちゃんらしい人見つけた。こっちから話しかけるから」


ゆりこ(中村)→まーちゃん(150pt) 「ハァ?って顔された…人違いだったよわたし、小学校と間違えて高校のほうへ来たのかも…今からもうひとつの学校のほうへ行くから、まーちゃんは動かないで。待ってて!ごめんね…ドジで…泣いちゃう」


まーちゃん(115pt)→ゆりこ(中村) 「いいよ!ゆりこ。こっちから行くからそこを動かないで!」


ゆりこ(中村)→まーちゃん(115pt) 「ううん…いいの。わたしは倒れたっていい…今日はどうしてもまーちゃんに会って聞いてもらいたいことがあったの…」


まーちゃん(80pt)→ゆりこ(中村) 「どうしたの?何か思いつめたことがあったの?」


ゆりこ(中村)→まーちゃん(80pt) 「うん、わたしのおばさんがね…その人はわたしの父の姉で、母さんと父さんが結婚するとき最後まで結婚に反対してた人なんだけど、その人からわたしは、『おまえはいらないはずの子だった』みたいに言われたの」


勝手に人のキャラのストーリー作るな!と思ったけど感嘆した。
こいつは大嘘の天才だ!!


まーちゃん(45pt)→ゆりこ(中村) 「ひどいね!そう思う人もいるのかしれないけど、僕みたいにゆりこをかけがえのない人だって思ってる人間だっているよ!」


ゆりこ(中村)→まーちゃん(45pt) 「やさしいね…今から会ったらギュッと抱いてねわたし、意地でもまーちゃんのもとへ行くから…苦しいけど、わたしのまーちゃんへの気持ちを試してみるの…」


まーちゃん(10pt)→ゆりこ(中村) 「そんなに苦しい思いまでして…ごめんね、涙出てきちゃった。いくらでも待つから急がないで!でも、ゆりこを早く暖かいところへ連れて行かないと!僕の胸でよかったらあとでいくらでも貸すからね…ここでゆりこを待ってる!」


萌えている…
中村君の乾いた笑いが聞こえてきそうだ…


ゆりこ(中村)→まーちゃん(10pt) 「まーちゃんいない…ここでも一周してみたの。結局まーちゃんとは出会えずじまいなのかな?本当はどこにいるの?もう病院に帰らないといけない時間になったのに…。今から帰りのタクシーひらうね…遅くなるとつかまらなくなるから」


ゆりこ(中村)→まーちゃん(5pt) 「いまタクシーのなかだよ…運転手さんに『唇が紫色ですよ。』っていわれちゃった…まーちゃんって本当に存在するよね?ゆりこ、こんど待ちあわすときは島田の役所とは違うところがいいな…」




まーちゃん(400pt)→ゆりこ(中村) 「ポイント追加して、もらったメール、全部読んだよ。島田の役所だったみたいね…ごめんね。僕がよく読んでなかったからゆりこをこんなに危険な目にあわしちゃって…僕のこと嫌いになってなければいいけど。」


まーちゃん(365pt)→ゆりこ(中村) 「でも、今日はゆりこと一歩前に進めた気がする。」


…。


(いーや。実際は一歩も進んでなんかいないよ!)


騙される側は常にピエロ、なんだろうか?
サクラは、アリとキリギリスで言えばキリギリス的な職業である。
アリのように地道に生きている人のようにはかなわないと、この物語の終盤で思い知ることになるのだが。


まーちゃん(330pt)→ゆりこ(中村) 「雨が降ってきたね。僕、しばらくここでこうしてるね…」


この寒空の下、雨の中、まーちゃんは待ち続けたのである。来るはずがない人を…



 ――― 携帯電話を、握りしめて。