14.同期のサクラ | 携帯男

14.同期のサクラ

今日もサクラだ、仕事だ。
出社してタイムカードを押す。


わたしがいつも座る席へいくと、関野さんはもう隣に座ってメールの返信をしていた。
私より、1時間早いシフトだったらしい。


「私も今日、22時あがりなんだけどさ…。」
ささやき声で私に言う。
「只野っち、よかったら今日の帰り、ちょっとだけ時間とれる?」


何の話をされるのか、おぼろにわかっているつもりだった。



――22時、定時。
私と彼女は並んでタイムカードを切った。


駅とは逆の方向にある、ジョナサンへ向かう。


二人、無言で階段をのぼる…


窓際の席に座る。ドリンクバーを注文した。


「仕事、慣れた?」
ストローの入った細長い紙袋をちぎりながら、彼女は尋ねてきた。


「いい意味で手の抜き方覚えた。っていうかね…。」


あいまいに返事した。


「ちょっと、信じられない…。」
そう言って、アイスコーヒーのはいったグラスにストローをさし、吸う。


彼女も、客から送りつけられるエロメールにあてられているようだった。

「でも、ネットの向こうには、送ってる人が実在するんだよね…」


そう言われて少しハッとした。


そうなのである。
まるで看護婦が、患者の局部に触れるように、職業化して恥じらいも反応もなくなってきたが、
送っているのは現実の男たちなのである。


「やめるときって、どうすればいいのかな?」
(本題が来た!)と思った。


サクラのバイトは回転が早い。
やはり人を騙すことに疑問を感じたり、客をうまく回しきれなくてキツい野次をもらったり、
適性の高い人(?)もいるけど、精神的負担が大きい。
離職率が高いのである。


「一ヶ月前に言っておけばいいと思うよ。」
そのはずである。


「もし、私が辞めるときは、只野っち、一緒に言いに行ってくれる?」


彼女は杉並に実家がある。お小遣いももらっている。


わたしだって、できれば続けたくない。だけど彼女とは事情が違うのである。


わたしは、その旨と、今はバイトが見つかりにくいことを説明して「何とかもう少しがんばろう。」ということを持ちかけた。


「わかった。がんばろうね。」
そう言ってくれたけれど、続ける意欲が湧いてきた、という感じではなかった。


駅に向かって、二人歩く。


無言のまま…。


最近、仕事をする姿にどこか元気がなく浮いていたのだが、やはりそういうことだった。


改札近くでわかれた。


彼女と私は同期のサクラ。
散るときも一緒か?