13.まーちゃん① | 携帯男

13.まーちゃん①

今日も仕事だ。
アポを回避しなければいけない客達の名前が浮かんできて、気分が重かった。


出社してタイムカードを押し、席につく。
パソコンのスイッチを入れた。



では、どういう客がいいのか。
会いたいと言わない。直の電話番号やメールアドレスを聞いてこない。
エロネタなどを話さない。
返信してくれるときは、いつでもいくらでもしてくれる。


雑談するだけでお金をくれと言ってるようだが、そういうお客がいい。


まーちゃんからのメールをみたのは、この日が初めてだった。


まーちゃん(945pt) → ゆりこ(只野)「すぐ会える人?」


ゆりこ(只野) → まーちゃん(945pt)「どんな人さがしてるの?呼べば相手が誰でもホイホイ出てくると思ったの?わたしがどんな女だと思ってメールしたの?」


イラついてるのか、キツい内容になった。


まーちゃん(910pt) → ゆりこ(只野)「ゴメンふつうに話きいてくれたり聞いてあげたりできる人がほしいよ」


ゆりこ(只野) → まーちゃん(910pt)「聞いてもらいたいことが何かあるってこと?」


まーちゃん(875pt) → ゆりこ(只野)「仕事で失敗しちゃって仕事はキツいし、友達はできないし負担ばかり大きくて未来に明るい材料がみえない…」


地方の不景気の影響だろうか?


わたしだって、参っていた。
ゆりこ(只野) → まーちゃん(875pt)「苦しんでいるのが自分だけじゃないってわかったら、少しは気分軽くなる?」


まーちゃん(840pt) → ゆりこ(只野)「君も何かで苦しんでるの?よかったら話して?」


ゆりこ(只野) → まーちゃん(840pt)「それは…今は言えない。でも、チカラいっぱい戦って生きてるよ」
「言えない」というより適当な理由が思い浮かばなかった。


まーちゃん(805pt) → ゆりこ(只野)「なんだか事情があるみたいだね。そうだね、男がへこたれちゃダメだね」


ゆりこ(只野) → まーちゃん(735pt)「本当に絶望したときは、希望をもとうとする力もないんだって。」


まーちゃん(595pt) → ゆりこ(只野)「この辺は田舎でね。たまたま見つけた広告見て、気づいたら入会してた。どこか逃げ道がほしかったのかもね」


ゆりこ(只野) → まーちゃん(525pt)「失敗して怒られるの?いちかばちか謝ってみれば?大きな困難は一か八かのチャレンジが一番良く効くよ」


まーちゃん(525pt) → ゆりこ(只野)「たぶん殺されはしないだろうけど…なんとか言ってみる」


ひとごとだと、いくらでも勇敢になれる。


・・


まーちゃん(385pt) → ゆりこ(只野)「死ぬほどのことではないけど、ありがとう。すこし気分が軽くなったよ」


・・


まーちゃん(35pt) → ゆりこ(只野)「今日はこれでポイントなくなるけど、また買って連絡するね。ここは辺境だし、ポイント買いにいくのに早くて40分くらいかかるんだよ」


まーちゃん(0pt) → ゆりこ(只野)「あなたに話しかけてみてよかった」


などなど…


気づいたら雑談だけでかなりのポイントを消費してくれていた。
ゆりこ(只野) → まーちゃん(0pt)「こまったこととかあったら連絡してねわたしならいつでも依存していいよ」


非常に思いやりのある言葉にみえるけれど…


仕事の成果(返信の量)を責められないよう、キープ君を一人増やしたかっただけ。
悩みを聞いてあげるだけで返信を稼げるならオイシイ客だと、そう思っただけ。


でもいずれ付きあうようになるとは…
人はしばしば、運命を避けようとして取った行動で違う運命と出会う。


今日もたくさんの男をだました。
だけど「あなたに話しかけてみてよかった」という言葉は、
駅に向かうまでの足をいつもよりずいぶんと軽くさせた。