8.洗礼
白石さんが言っていた「ポイント見ながら」というのが手がかりだ。
そう考えた。
男性側からはポイントが0になればメールは送れないはず。
見ればこの人は持ちポイントが残り少ない。
(無駄メールを出させてポイントを0にして、肝心なところで連絡がつかないようにすれば何とかなるかも。)
この線でいくことにした。
ほのか(只野) → ユウヤ(210pt)「ね、三宮駅まで来るのにどれくらいかかるの?」
ユウヤ(175pt) → ほのか(只野)「30分くらいだな」
ほのか(只野) → ユウヤ(175pt)「ねぇ、晩御飯食べたの?私まだなんだけど…」
ユウヤ(140pt) → ほのか(只野)「その辺で何でも食いモン買えばいいじゃん」
ほのか(只野) → ユウヤ(140pt)「着ていくもの考えてるんだけど、何着ていけばいいかな?そっちはカジュアルなの?」
ユウヤ(105pt) → ほのか(只野)「部屋にいたときのカッコで出てきてるよ。何でも着てくれば?」
ほのか(只野) → ユウヤ(105pt)「あの…お金っていくらくらい持ってくるの?わたしサイフに自信ないんだけど…」
ユウヤ(70pt) → ほのか(只野)「給料出てるから、メシ代とホテル代くらいあるよ」
ほのか(只野) → ユウヤ(70pt)「ねぇ、着ていくもの何がいい?やっぱり最初の第一印象が大事かなって思ってるんだ」
ユウヤ(35pt) → ほのか(只野)「意味ねぇメールしてくんなよ!ポイントなくなるだろう!?」
あと、一通。
ほのか(只野) → ユウヤ(35pt)「夜遅くなってきてるけどわたし門限あるっていっても、今日じゃないとダメ?」
ユウヤ(0pt) → ほのか(只野)「フリーターじゃなかったのかよ?門限って何時よ?」
やった。持ちポイントを0にした!しばらくは送ってこれない。
今日はもう、これで連絡はないかもしれない。
もし、ここからポイントを購入して連絡してきても、ずいぶん後になるだろう。
そうすれば、「今日はもう遅くなったからダメ」とか言ってごまかせばいい。
そう思った矢先だった。
ユウヤ(2965pt:兵庫) → ほのか(只野)「着いたぞ。今どの辺にいるんだ!?」
ポイントが増えている!どうやら現場に到着したらしい。
私は椅子から飛び上がりそうになった。
隣の男の子をゆすった。
「ねぇ、一度0になったポイントが急に増えたんだけど。」
(あり得るか?)というような顔でのぞいてきた彼はモニターをみると
(あぁ。)という顔をして、
「カードでポイント買ったんだよ。」
と言った。
カードでのポイントの購入は振込みで買うのと違い、即座にポイント増加が反映されるらしい。
カードの情報を知られるのが嫌い、使う人はめったにいなのだが、とのこと。
ここが攻めどころ、と思った男はカードでポイント購入してきたのである。
もう、打つ手が浮かばなかった。
ほのか(只野) → ユウヤ(2965pt)「ごめん急にお腹が痛くなって」
ユウヤ(2930pt:兵庫) → ほのか(只野)「てめーふざけるよ!!誘ったのテメーの方だろ?」
ユウヤ(2895pt:兵庫) → ほのか(只野)「家、どこだ?このへんだろう!?」
呪いの言葉をぶつけてくる…
ポイント使ってまで、文句送りつづけるか!?
ただただ、沈黙するしかなかった…
ユウヤ(2860pt:兵庫) → ほのか(只野)「何か言えよ!コラァ!黙ってんじゃねえ!!!」
仕事に点数をつけるなら、最低点の結果になるだろう。
生まれてきて受けたことのないような、男からの暴言に震えた。
私の席から離れた島で、サクラ同士が雑談している声が聞こえた。
「あはは…、こいつキレてるよ。」
「××って書いて送ってやれば?」
…この先、私につとまるだろうか。
エアコンのきいた部屋で、ただキー入力だけしてればお金がもらえる。
世の中、そんなに甘いわけはなかった。