7.「アポです!」 | 携帯男

7.「アポです!」

とにかく、客とメールを続けてポイントを減らす。
それしか頭になかった。


ユウヤ(280pt:兵庫) → ほのか(只野)「兵庫のどのへんの人?」


ほのか(只野) → ユウヤ(280pt)「私、三宮に住んでるの」


ユウヤ(245pt) → ほのか(只野)「じゃ、三宮駅の北口のロータリーでどうよ?月初めじゃなければいつでも会えるぜ?そっち時間はどうよ?」


ほのか(只野) → ユウヤ(245pt)「うんフリーターだから…時間はそっちが決めていいよ?」


恋は段階をふんでから…
そんな固定観念のあった田舎娘の私に、次の一通は予期しえないものだった。


ユウヤ(210pt) → ほのか(只野)「じゃもう俺家出てるから車で行くよ顔見せだけでもいいだろ?近いんだから遅れんなよ!」


私は、隣の男の子に訊いた。
「もう家を出たって言ってきてるんだけど、どうすればいいの?」


とたんに彼は(あっ!)というような表情をし、
身をねじってのりだし、私の端末のマウスをグリグリ動かた。


「これはどうやらアポだね。」


この客とのメールのやり取りを読んで、そう言った。


アポとは、アポイント(実際に会う約束)のことで、実際に会いに行くわけにいかないサクラとしては最も避けるべき事態である。


当たり前だ。いまから兵庫まで行くわけにはいかない。


彼はしばらく(どうしようかなぁ…)という表情をしたあと、管理を呼んだ。
「白石さん、アポです!」


「アポォ?」
管理はそれまでやっていた作業を止め、席を立ってこちらにやってきた。


となりに座っている関野さんも、少し驚いた感じで自分の作業を止めた。
(なんだか、いけないことをやったらしい…。)
私の身は固くなった。


白石さんは、私の脇から身をのりだし、やはりマウスをグリグリ動かして、それまでのこの客とのやり取りを読みながら、言った。


「あのね、『日にち』、『時間』、『場所』この3つを決めて会う約束してしまうとアポになるから…。日にちを決めても時間は決めない。時間は決めても場所は決めない…っていうように、この3つのうち最低一つはあいまいにするのがコツかな。」


初日のサクラにわかるわけがない…
まるで逆子の出産に立ち会ったような空気だった。


「アポになって、予定通りのトコに来なかったとするでしょ?客としては会うために他の約束やめて来てたり、遠いトコから来さされたり、待たされたりしてたら怒りだすわけよ…。退会されちゃうし、サイトに抗議の電話くることもあるし、ロクなことがないんだ…。」


でも、(いいか。)という感じでこう続けた。


「まぁサクラやってる以上アポは避けられないから。どれだけアポをうまくかわせるかがサクラの腕のバロメーターだしね。ベテランだと、ここでうまく客を回してポイント削ったり、相手のせいにしたり、逆に客と仲良くなったりすることもあるから。ポイント見ながらうまくやってごらん?もう、この客に切られてもいいから。練習、練習!」


…そんなことができるのだろうか?


わたしは他の客に返信することを止め、この客に集中することにした。
持っている知識を総動員して…