2.遭遇 | 携帯男

2.遭遇


2000年を少し過ぎたある秋の日 ―――


学費は振りこんだものの、生活費を用意する必要があったので、次の仕事を探すまでの時間的な余裕はなかった。
なかば、反対する家族を押しきって上京したので、バイトも学生生活も順調なふりをする必要がある。


前のバイトをわけあって辞めたあと、バイトの面接に二つ落ちていた。


「採用が決まったらこちらから連絡します。もしこちらから連絡がない場合は残念ながら…」
というかんじで、連絡が無いのがいつものパターンだった。


(また落とされるんだろうか?私はそんなに労働者として魅力ない?本当は人なんか欲しくないんじゃないだろうか…)


折からの不景気で労働力は買い手市場。(使えそうなのだけ選別すればいい)という雇用側のご都合は、わたしのように、何も持たず地方からきた貧乏学生には切実なプレッシャーだった。


重い気分の夕暮れ、その日も商店街をぬけたばかりのところにある、求人誌の無料スタンドから一冊、もらった。


暗いアパートに戻る。私は急須にお湯を入れ、求人誌をひらけた。


一つの記事に目がとまった。


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仕事内容  PCを使った入力業務
時間    9:00~24:00
      1日4h、週4日以上で応相談
給与    時給1000~1700円以上
待遇    交通費支給、昇給随時、髪型・服装自由

交通    地下鉄〇〇駅から徒歩3分
応募    TEL後、履歴書(写真貼)ご持参ください

有限会社 〇〇ネット

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条件だけをみれば文句がなかった。


自由度が高く、割のいい時給。


翌朝、常識的な時間に電話を入れるつもりでこのページを半分に折った


―― 翌朝


「では、あす午後3時、写真付きの履歴書をもって来て下さい。」


「あの、担当のかたのお名前いただけますか?」


「私ですか?私は谷田ともうします。面接は担当のものがしますので。」


アポイントの後、履歴書をかいたり、翌日の面接のための支度をした。